サニックス杯

【安藤隆人さんスペシャルコラム後編】これから注目の選手たちとサニックス杯

サニックス杯国際ユース大会の振り返り。前編ではカタールW杯選手たちの高校時代を振り返ったが、後編では今、Jリーグで活躍し、チームの主軸になったり、将来の日本代表選手として期待されている選手たちのこの大会での様子やエピソードを紹介していきたい。

2009年の第7回大会では東京ヴェルディユースのサッカーの質が非常に高かった。当時の東京Vユースには高木俊幸と善朗の高木兄弟、三竿雄斗らがいた。俊幸と善朗のコンビネーションはさすが兄弟と思わせるほど絶妙で、市立船橋高戦では彼ら2人のコンビネーションで堅守・市船を翻弄し、当時フィニッシャーとしても優秀だった三竿がゴールを決めて2-1の勝利を挙げるなど、彼らの連携は今でも強烈に印象残っている。

2015年の第13回大会では、現在はJ1王者の横浜Fマリノスの中盤に君臨する渡辺皓太、今年からJ1のサガン鳥栖に移籍をした河原創、横浜FMで昨年にJ1リーグの年間最優秀選手賞に輝き、今年からスコットランド1部のセルティックに移籍をした岩田智輝、清水エスパルスに所属する神谷優太の4人に注目をしていた。

東京Vユース所属だった渡辺はこの大会ではU-17日本代表の一員としてプレー。ボランチとしてセカンドボールへの反応が秀逸で、素早くボールを拾ってはドリブルで一気に運んだり、絶妙なタイミングで攻撃のスイッチとなる縦パスを入れたりと、1人で攻撃のリズムを作り出していた。

河原が所属していた大津は、当時、CB野田裕喜(現・モンテディオ山形)、FW一美和哉(現・京都サンガ)、MF杉山直宏(現・ガンバ大阪)らが揃う全国屈指の実力を持ったチームだった。その中で河原は168cmと小柄ながら豊富な運動量と球際の強さを見せて、どこにでも顔を出してボールを奪う存在だった。スペースが空いたと思うと、直ぐに河原が走り込んできて、ボールを受けた相手に激しく寄せている。しかも簡単に交わされることがなく、どれだけフェイントで揺さぶっても文字通り食らいつくようにマークを離さない。彼のずば抜けた献身性は見ていて非常に面白かったし、魅力的だった。

河原は福岡大を経て、2020年から2022年までロアッソ熊本でプレーし、J3からJ2昇格を経験。昨年はJ1昇格あと一歩のところまで大躍進をした熊本において、全試合フルタイム出場を果たすなど、不動の攻守の要になったことで、前述した通り今年からJ1の鳥栖に個人昇格を果たしている。

大分トリニータU-18に所属していた岩田は見に行く度にポジションが違う選手だった。彼が1、2年生の時は主にサイドハーフとFWがメインで、右サイドから強烈な突破を仕掛けたかと思えば、FWでは身体を張ったポストプレーと一瞬の抜け出しでゴールに迫る。この大会ではボランチ起用をされていて驚いたことを覚えている。

どんなプレーを見せてくれるのかワクワクして見ていると、彼が繰り出したのは鮮やかなターンだった。DFラインからのボールをキュッと鋭いターンで前を向くと、正確なキックと積極的なドリブルで前にボールを運んでいく。あまりのキレと技術の高さに、磐田という選手のポテンシャルの高さをこれでもかと思い知らされた。

その後、彼はトップチームに昇格し、サイドバック、サイドハーフ、CB、ボランチをハイレベルでこなすと、J2昇格、J1昇格を経験。2021年に横浜FMに完全移籍をし、前述した通り一気にステップアップを果たした。

当時、青森山田の10番を背負って出場をした神谷にとって、このサニックス杯は『高校サッカーデビュー戦』だった。2014年の年末に彼はジュニアユースから所属をしていた東京Vユースから青森山田に転校し、新チームの10番を託されて、この大会で初お披露目となったのだった。

トップ下に君臨した神谷は、巧みなボールキープ、正確なラストパス、そして強烈なシュートと、攻撃の中軸として機能した。グループリーグ第3戦の東福岡戦では、GKの逆を突く強烈なミドルシュートを叩き込むなど、1得点1アシストの活躍。大津、東福岡、三菱養和SCユースと、今大会の最激戦グループと言われたグループBを3勝で1位通過。準決勝ではU-17日本代表を1−0で下し、決勝ではU-17韓国代表に敗れたが、堂々の準優勝に導いた。

翌2016年の第14回大会では東福岡が準優勝に輝き、この時に新2年生ながら10番を背負った福田湧矢の存在感は際立っていた。左のアタッカーとして高い突破力を披露し、サイドからのクロス、カットインからのシュートとチャンスメークからフィニッシュまでなんでもこなせる能力を見せつけた。

他にも上位には食い込めなかったが市立船橋は強烈なチームだった。1年生の時から不動のレギュラーで背番号10番を背負うMF高宇洋(現・アルビレックス新潟)が最高学年を迎え、心身ともにチームの中心となって抜群のキープ力とシュートセンスを披露。この時の市立船橋には杉岡大輝(現・湘南ベルマーレ)、原輝綺(現・グラスホッパー、スイス)、金子大毅(現・京都サンガ)真瀬拓海(現・ベガルタ仙台)など豪華メンバーが揃っており、高を中心に非常に質の高いチームだった。

福田が高校3年生になる2017年の第15回大会では、東福岡vs流通経済大柏の一戦で、福田とCB関川郁万(現・鹿島アントラーズ)のマッチアップが非常に面白かった。キャプテンマークを巻いて、前線から味方を鼓舞し、ボールを受けたら抜群のキープ力を見せる福田に対し、高校2年生になる関川が迫力満点の寄せとフィジカルの強さを見せる。

「相手が有名な選手だということは知っていたので、絶対に負けちゃいけないと思っていた」と自ら勝負を挑む形で激しいマッチアップを何度も見せた。最初は福田の身のこなしとキレにバランスを崩すなどしていたが、時間が経過するにつれてボールを奪い取るシーンも見られるようになり、戦いの質が上がっていくことが見ていて非常に楽しかった。

東福岡で言えば荒木遼太郎のプレーも非常に見ものだった。東福岡の10番として2019年の第17回大会に出場をした彼は、どんな体勢でもボールを持ちながら常に顔が上がっていて、次へのプレーの選択スピードが非常に早くて正確だった。トップ下からアンカーにコンバートされたばかりで、アンカーとして広範囲をカバーしながら、ボールの中継点として機能し、パスとドリブルで攻撃を牽引する。当時、視察に来ていた鹿島アントラーズのスカウトが、「ものすごく成長をしている。なんでもできるし、将来性もある」と目を輝かせていた。その後、荒木は熱烈オファーを受ける形で鹿島入りを果たし、プロ3年目の2022年から名門クラブの10番を託されている。

個人的にサニックス杯と言えば、毎年のようにタレントを抱えている前橋育英のプレーが見られるのも楽しみの1つだった。

黄色と黒の縦縞の伝統のユニフォームを身に纏った選手たちの中で、この大会でインパクトを残したと言えば、鈴木徳真、角田涼太朗の2人が浮かぶ。鈴木徳真はU-17日本代表として2014年の第12回大会に出場。ボランチとしてキャプテンマークを巻いて正確なプレーでチームの落ち着きどころとして機能。常に周りを見渡しながら正確なトラップとパスで、ほぼノーミスなプレーをやってのけるなど、堅実かつ正確なプレーはセレッソ大阪のボランチとしてプレーする今も変わっていない。

左利きのCBとして大きな注目を集めていた角田は2017年の第15回大会に出場。183cmの高さを生かした空中戦の強さと、左足の正確な長短のキックの質はずば抜けており、一発で局面を変えたり、フィニッシュまで直結するような縦パスを打ち込んだりと、能力の高さを随所に見せていた。

当時の前橋育英のDFラインは松田陸(現・ジェフユナイテッド千葉)、渡邊泰基(現・アルビレックス新潟)、後藤田亘輝(現・水戸ホーリーホック)と全員がのちのJリーガーとなり、さらに中盤には田部井涼(現・ファジアーノ岡山)、五十嵐理人(現・栃木SC)、FWには飯島陸(現・ヴァンフォーレ甲府)、室井彗佑(現・大宮アルディージャ)、宮崎鴻(現・栃木SC)など錚々たるメンバーが揃っていた。

最後にやはりサニックス杯を賑わせた大物と言えば、現在、FC東京で不動のレギュラーとして君臨し、U-20日本代表のキャプテンとしてアジアで躍動している松木玖生の存在を外せないだろう。

彼は中学生の時からサニックス杯で強烈なインパクトを与えてきた。高校最後のサニックス杯は2021年の第19回大会(第18回大会は新型コロナウィルス感染症の関係で中止)だった。

前年度から背負う10番とキャプテンマークを巻いた松木は、「チームをまとめていくのがキャプテンなので、常に周りに気を配りながら取り組みたい。難しいことですが、これを1年間実行したいなと思います」と気持ち新たに新シーズンに挑もうとしていた。

その気迫がプレーでもピッチ外での姿勢にも現れていた。ピッチ上では常に声を出し、球際も全然からの守備も誰よりも激しく、闘争心を漲らせながらやっていた。激しいプレスバックでカウンターを阻止すると、大きな雄叫びを上げ、味方が緩いプレーをすれば容赦無く叱咤した。攻撃面でもダブルボランチの一角として、爆発的なスプリントで前線まで何度も駆け上がり、FW名須川真光(現・順天堂大学)と息のあったコンビネーションを見せてゴールに迫った。

ボックスtoボックスを何度もアップダウンし、攻守において強度も精度も高いプレーを見せつける。ピッチ上での彼は獰猛かつ勝利に飢えたハンターとして、凄まじい存在感を放っていた。

「今年のテーマは『常にゴールを目指す』こと。守備をしっかりとこなしつつ、ゴール前には必ずスプリントをして入り込む。仲間への信頼度は高いですし、自分一人だけではなく、仲間と助け合いながら強度を前面に出せるチームにしていきたいと思います。今年の目標は3冠。このサニックス杯を皮切りに全開でこの1年間を戦っていきたいと思います」

グローバルアリーナのグラウンド脇でこう熱く語っていた言葉を、彼はそのまま有言実行して見せた。インターハイ、高円宮杯プレミアリーグEAST、高校選手権の3冠を達成し、2022年に鳴り物入りでFC東京に加入。クラブ史上初となる高卒ルーキーで開幕スタメンを勝ち取ると、ルーキーイヤーでリーグ31試合出場し、2ゴールをマークするなど主軸として活躍。今年は中学3年生でサニックス杯に出場したときに背負っていた7番を背負い、FC東京だけではなく、U-20日本代表、パリ五輪代表のエースとしての期待を一身に集めている。

今年で21回目を迎えるサニックス杯国際ユース大会。今回は青森山田、前橋育英、大津、東福岡、柏レイソルU-18、サガン鳥栖U-18、ヴィッセル神戸U-18と高円宮杯プレミアリーグに所属する全国トップレベルの高校、Jクラブユースに加え、U-17マレーシア代表、インドのリライアンスFヤングチャンプスU18、韓国のチェジュユナイテッドFCユースが参加。ここから羽ばたいて行った名だたるタレントたちのように、今回もハイレベルな国際大会として新たな才能の息吹を感じさせる選手と出会える大会となるはずだ。

安藤隆人さんスペシャルコラム後編

安藤隆人プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は40を超える。サッカージャーナリスト歴は27年。
2022年カタールW杯も合計27試合を取材。
その1ヶ月間の激闘を密着取材をした『ドーハの歓喜 2022 世界への挑戦、その先の景色』(徳間書店)を刊行。

ドーハの歓喜 2022世界への挑戦、その先の景色

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